世の中のニーズはどんな時代でも常に存在するものですが、映像業界のように変化がめまぐるしく日々進化し続ける世界では、求められるニーズも多種多様となり、さらにそのニーズに対する迅速な対応が鍵となることも少なくありません。
今回は、2003年12月の出荷以来順調に普及を続けるAvid DS Nitrisをいち早く導入し、すでに本格稼動をされている小学館ミュージック&デジタルエンタテイメント(以下 SMDE様) デジタルコンテンツ部 デザインワークルーム室長 西山 宗弘様および、同室 太田 貴之様より話をお伺いする機会を頂きました。
同社は小学館プロダクションの子会社として、デジタルメディアのビジネス化、さらにはデジタルエンタテイメントを担うべく1998年に設立されました。実写やアニメ、CG、ミュージッククリップ、さらにはCMまでと業務内容は多岐に渡りますが、主にCG制作やWeb制作を中心とした作業をされています。同社の特徴であるCG制作の工程では、合成やエフェクトといった作業は必ず発生します。これまでは、作り上げたCG素材をまずは独自のファイル形式へ変換し、また、DVE・エフェクト処理を加える際には別のソフトを使用しレンダリングを行っていました。このようなワークフローでは、ソフトを行き来する手間やレンダリングの待ち時間などで作業の効率化が図れず、仕事の幅への制限もありました。お客様の要望を叶え、ベストなクオリティを提供することに重きを置く同社は、ますます多様化するニーズや順調に増え続ける仕事量の増加に対応し、クオリティの向上、ワークフローの改善、仕事の受け皿拡張といった条件をも満たすべく、新たなシステムを導入するための検討段階へと入ることになります。
既存のシステムの多くは、編集および合成機能を併せ持っていてもどちらかに特化したシステムが多いというのが検討時の懸案事項でした。要求されるクオリティ、スピード、量、さらにSMDE様が抱える仕事の幅に耐えうるシステムとしては両方兼ね備えていることが理想でした。検討期間は比較的長く確保し、考えうるすべての製品を候補として検討を重ねた上で、昨年のInter BEEでは各製品の現状および方向性を調査しました。
その結果、金額や諸機能含め一番パフォーマンスに優れているもの、一番将来性を見込めるものとして、2003年12月、Avid DS Nitrisの導入決定となります。決定要因としては、スピードはもちろんのこと、要求される表現を微細に渡り詰めることが可能であるという点が大きかったようです。実務では明確なゴールが見えていることは少なく、現場で突発的な要望が発生することも多々あります。日々時間とボリュームに追われている現場の方々にとっては、それらの要望に的確に対応できるようになったことは大きなメリットと言えます。ワークルーム室長の西山氏は「ソフト自体は様々な要望を満たす力は十分持っているので、後は現場がいかにその力を引き出せるか。今後は、Nitrisおよびスタッフの可能性がどこまで広がり、ノウハウがどこまで蓄積されていくかが楽しみです。」と話されています。
SMDE様では現在放映中の番組として、"おはスタ"、乗り物紹介番組である"のりスタ!"おはすたの中のゲーム番組である"デュエル・マスターズ"、"ロックマンエグゼ アクセス"といった計4本の定期番組の他に、小学館関連のCMなども並行して制作しています。HD制作では、劇場版「とっとこハム太郎」の制作にも携わり、CG部分を担当されました。定期番組4本は旧システムから引継がれ、現在はNitrisにて制作されていますが、以前はレンダリングの待ち時間などを想定してのスケジュールを組んでいました。
Nitris導入による大幅な時間短縮が実現された今、より良い形で時間を有効活用できるよう、スケジュールも組み直していかれるとのことです。作業面でも、CG出力時にNTSCモニターで色味を確認しながらカラコレを施した上で出力を行う、クロマキー素材に対して取り込み直後のキーイングによるCGとの組み合わせ確認を行うなど、これまでは時間の関係上あきらめざるを得なかった部分に対しても十二分に対応可能となりました。すべての処理が数段速くなったことで、SMDE様でお取り扱いされている映像についてはほぼすべてを現実的な処理時間でカバーできる上、細かなエフェクト処理や完パケに近い状態へ作り込めるオフラインなど、Nitrisは様々な側面で力を発揮しています。以前のようにソフトを行き来する必要がなくなり、1つのソフトですべてが完結するという部分においてはストレスや手間からも解放されたのではないでしょうか。
さらに、自社内のCGグループとのスムーズな連携がNitrisを活かす鍵と考える同社では、統括した組織体制、ワークフローを今後の課題の一つとして掲げていますが、「理想とする全体像が具体的に思い描けるスタートにはすでに立てた」(西山氏)というお話からは今後への自信を窺い知ることができ、近い将来青写真が現実となるのは間違いないでしょう。
Nitrisは枝の1本ではなく幹であり、世の中のニーズという大きな流れの行き着く最終的な解決策であろうと考えるSMDE様では、今後少しでも多くの方にNitrisの持つ可能性、ひいてはSMDE様が持つ可能性を知っていただきたいと門戸を広く開放されています。
現在は太田様1人でNitrisを担当されていますが、システムのsフル活用、新ソリューションの発見、才能ある人材の発掘などのためにも、気軽に情報交換ができ、多くの方が様々な形で関わることのできる態勢を整えていきたいとのことです。
(長西 由紀恵)