近年、映画制作もデジタル化が主流となりました。
これまで時間と労力をかけて制作していた部分に次々とデジタル処理が取り入れられ、DIという言葉も珍しくなくなった現在、映画制作の世界は過渡期に突入したと言えます。
ワークフロー全体がデジタル化によって簡易化されれば、個々の作業に対する利便性もまた求められます。
映像業界において長い歴史を持ち、技術の高さではトップレベルを誇るIMAGICA様ではどのような作業で映画が制作されているのでしょうか。
今回は、IMAGICA様の中でも主にマスタリング作業におけるパラ消しや、合成/CG、およびデータ変換作業を手がける映画部画像処理グループの越智武彦様にお話を伺いました。
データ変換とはVTRからコンピュータのデータファイルに変換する作業を指しますが、今回はこのデータ変換作業の増加に伴いDVS社のCLIPSTERを導入しました。
また、従来の製品では独自のフォーマットでデータを取り込むため、ローデータから連番ファイルへの変換作業が発生しますがそれにはソフトが不可欠であり、レンダリングにも相当な時間がかかっていました。こうした非生産的なワークフローを改善すべく、これらすべての課題を克服する製品を模索していた結果、HD4:4:4のデータを非圧縮連番ファイルとして直接取り込むことができるCLIPSTERと、ディスクレコーダに特化したPronto2Kが2004年10月に採用されました。
データ変換作業の将来的なボリュームを見越して2台導入しましたが、着実に増加する作業量に2台で対応するのは困難となり、優れた操作性と信頼性から2005年4月に3台目を追加導入、現在は100%以上の稼動率で運用しています。
では、データ変換作業とは実際どのように行われているのでしょうか。
映画部様では目的別に2種類の作業を行っています。
まず1つ目は、HDCAMやHDCAM-SR 4:2:2、あるいは4:4:4で収録したテープを非圧縮連番ファイルとしてCLIPSTERに取り込み、フィルムレコーダーが接続されたSAN上へコピーした後直接フィルムレコディングを行います。
2つ目は、他社様へ納品するHDCAMやHDCAM-SRテープを同様に非圧縮連番ファイルとして取り込みますが、このケースでは複数データフォーマット対応というCLIPSTERの利点を活かし、お客様の要望に合わせたフォーマットで取り込みます。データは外付けハードディスクやデータテープメディアに記録され、合成用素材としてお客様へ納品されます。
合成が終わり映画部様へ戻された非圧縮連番ファイルは再度CLIPSTERへ取り込まれ、HDCAMやHDCAM-SRに収録されます。従来のディスクレコーダでは必須であったローデータから連番ファイルへの変換工程がなくなり、収録とコピーが同時進行できるCLIPSTERの採用は作業時間の大幅な短縮につながりました。また、RAID0でありながら安定したパフォーマンスを発揮、ワークフローの効率化も実現しています。
CLIPSTERは多岐に渡る性能を持ち、お客様のニーズに応じて柔軟に対応できる製品としても注目されていますが、映画部様ではデータ変換とは別用途でもCLIPSTERを使用しています。まずは、2KデータをHDの解像度に変えて再生、HDのマスモニで表示することでスキャニングデータの確認を行うことができます。これまでの方法では圧縮してコンピュータのモニタ上で確認していたため、1ピクセル単位のノイズを明確に表示することはできませんでした。
また、自動パラ消しシステムCORRECTでパラ消しを行った際に、除去しきれなかった大きなチェンジマークなどを連番ファイルでCLIPSTERに取り込み、cinecureで作業するといったアーカイブ作業にも使用しています。
それぞれの作業が固定のCLIPSTERあるいはPronto2Kに割り当てられるわけではなく、作業のボリュームや内容に応じて調整されています。
昨今、映画制作に携わる人でなくてもDIという言葉は頻繁に耳にするようになり、デジタル化が定着し益々DIが普及すれば、今後の映画制作はきわめて大きな変貌を遂げることになります。CLIPSTERはDIワークフローにおいても優れた適応性を発揮する製品として、海外ではすでに多くの実績を持ちます。映画部様でも会社全体の戦略として本格的なDIが始動しており、「SANに直接つなげることによってプレビュー機能やリアルタイム再生に使用したいと思っています。DIワークフローの中に当然組み込まれる製品だと思うし、それができる機材だと思います。」(越智様)と、CLIPSTERをDIの一部の機能として捉えています。
また、「現在単体でデジタル化されている部分が、今後いかに効率的に接続され融合されていくかが1つのDIと思っています。IMAGICAも長年の映画制作のノウハウをデジタルの中にうまく取り入れながら、何が1番有効かを考えてそれに見合う機材、ネットワークを今後もさらに検討していきたいと思います。」(越智様)と語るように、市場の動向を的確に見極め、これまで温めてきた構想がついに具現化し始めた今、IMAGICA様のDIへの取り組みは今後益々拡大していくことでしょう。
DIには、決まったルールや答えは存在しません。今後どのようなDIが誕生するかは、各社の最終的なゴールやニーズによって異なります。リーディングカンパニーとして君臨し続けるIMAGICA様は、どのように独自のDIを築き上げていくのでしょうか。これまでIMAGICA様のもとで誕生した作品は、IMAGICA様が蓄積してきた膨大なノウハウとその時代での最新技術が凝縮され、世に送り出されてきました。今後はDIが強力なプラスアルファの要素となって、さらにクオリティの高い作品が私たちの元に届けられることを期待したいと思います。
(長西 由紀恵)